一章四節:税収

 それでは、日本政府は国債に頼らずに今の歳出を賄うだけの税収を得ることはできるのだろうか。税収全体の推移をグラフ6に、その内訳をグラフ7に示した。

グラフ6(注8


 グラフ6を見てわかる通り、日本の税収は最も高かった平成2年の60.1兆円から減増を繰り返すものの全体的には減少傾向にあり、平成24年度の予算額では42.3兆円まで落ち込んでいる。気になるのは、一節のグラフ1で見たように平成2年から平成9年まで名目GDPが増加し続けていたはずなのに、一方で税収が落ち込んでいることである

グラフ7(注9

 

 そこでグラフ7を見ると、法人税収が平成元年をピークに平成2年から下がり始めていることと、平成3年をピークに所得税収も下がり始めていることが分かる。

 

 そして、消費税が税率3%で開始された平成元年から平成8年までを見ると、消費税収はわずかながらも着実に増加しており、消費額が落ち込んでいないこともわかる。物価の上昇を加味しても、平成元年の消費税収3.3兆円<(平成8年の消費税収6.1兆円/平成元年を1としたときの平成8年の消費者平均物価指数)= 6.1兆円×0.905953356 5.526兆円となるため、消費は増加していると言える。また、所得税率はインフレ傾向にあった平成元年から平成6年まで変わっていない(注10し、平成2年に法人税の基本税率が40%から37.5%に引き下げられた(注11ことを考慮しても、平成元年の法人税収19.0兆円>(平成3年の法人税収16.6兆円×40/37.5×平成元年を1としたときの平成3年のGDPデフレーター)= 16.6兆円×40/37.5×0.953021431 16.874兆円となるため、平成3年からは確実に実質法人所得も減少していたことが分かる。

 

 したがって、税率などの制度的な変更や物価の変動を加味した実質法人所得と実質所得が共に減少したと言える。その原因は、平成2年以降にバブルがはじけて企業の有価証券や土地といった資産の価値が減少したため、法人と社員の所得も減少せざるをえなかったことだと考えられる。その間に国内消費は微増していたから、平成2年をピークとした税収の落ち込みの原因は消費の減衰ではなく、法人所得と所得の減少なのだ。

 

 また、消費税率が平成9年に3%から4%(地方消費税1%は除く)に上昇したのちに消費税収が微増し続けていることにデフレが進行していることを加味すれば、やはり消費は微増し続けていると言えるが、一節のグラフ2に見られるように平均消費者物価指数が高止まりしていることを考えると、今後の消費の急増はあまり期待できない。

 

 ゆえに、税率を変更せずに税収を上げようとするのならば、法人所得と所得を上げなければならない。

 

 そのための参考になるのは昭和62年から平成元年のバブル期だ。一節のグラフ1で分かるように、この時期のGDPは現在のそれと比較して、名目値で約25兆円から115兆円、実質値で約95兆円から160兆円も少ない。それにもかかわらず、税収は平成23年よりも4.9兆円から18.1兆円も多い。しかも、この時期の物品税収・消費税収は5.6兆円から8.2兆円も少ないから、いかに法人所得と所得が高かったか分かるだろう。その理由は、先ほど分析したように、有価証券や土地などの資産が増加したため、法人所得も所得も増加したと考えられる。

 

 したがって、この時期と同じ税率で企業の自己資本比率が一定ならば、今よりも企業の資産が増加したときに自然と法人所得と所得が増加し、税収は改善されると考えられる。もちろん、私は資産バブルをもう一度作ろうと言うのではなく、実体経済に基づいた資産増加があれば自然と税収は増えると言いたいのだ。消費税収の推移から、人々の消費活動がここ25年ほど増加はしたけども微増だと言えるから、企業の資産増加と所得の増加、そして消費の増加を促して税収を大幅に増加できるのは政府の財政政策だ。

 

 

 なお、政府は貨幣発行権を活用して公共事業を行えば良かったにもかかわらず、国債を発行するという過ちを犯し、銀行の所有者を肥やしただけでなく日本経済に多額の国債という不安要素を残してしまったが、とんでもない額の増税を試みてその国債を償還しようと考えるのは誤りである。

 

 その第一の理由は、これから税金で国債を償還しても、喜ぶのはまたしても銀行の所有者だけだからだ。これは、国債を償還したのちに銀行だけがiMIの得をすると三節で説明したことから理解できるだろう。その時、銀行以外の民間部門は-iMIの損失を被る。

 

 第二の理由は、三節で見た通り、国債を償還した後はΔ1M =(1 + i)MIおよびΔ1L =(1 + i)MI(1 + i)MI円国債という著しい信用収縮が起きているので、新たな資金供給を行わなければ、結局さらにひどいデフレ不況が発生するだけだからだ。資金供給を行うのに貨幣発行権を活用しないのであれば、またも国債を発行するはめになる。それならば、初めから貨幣発行権を活用して信用収縮を防ぎつつ、国債残高問題を別の方法で解決してしまえばいいのである。その解決策については三章で詳しく述べる。



五節:小括

注釈

(注8)出典:財務省 一般会計税収の推移

2013115日閲覧)                       


(注9)出典:財務省 税制について考えてみよう 税目別の税収の推移 

2013115日閲覧)


(注10)参考:財務省 所得税の税率構造の推移

2013118日閲覧)


(注11)参考:財務省 法人税率の推移

2013118日閲覧)