テスタティカ 幻の発電機

この世界が武力とお金とウソで支配された弱肉強食の世界だと気が付き、

 

この世界をより良いものにしたいと願うとき、

 

多くの人は2つの道のどちらかを選ぶことになります。

 

 

1つ目は、支配者たちと闘い、権力を奪取する道。

 

しかし、この道は上手くいく可能性が低い上に、大きな危険を伴います。

 

 

そこで考えるのが2つ目の道。

 

すなわち、支配から逃れ、自分たちの手で理想の世界を創るという道です。

 

私はこの道を選びました。

 

この道を行くならば、

 

なるべく生活に必要なものを自給しようと考えるのが当然です。

 

 

では、最優先で自給しなくてはいけないものはなにか?と考えると、

 

それはおそらく毎日消費するもの、すなわち食糧エネルギーでしょう。

 

 

この項に記すのは、そのエネルギーを求めてスイスの山奥を歩いた私の体験談です。

フリーエネルギーは存在するのか?

いつまでも使い続けることのできるフリーエネルギーは、現代の一般常識ではあり得ないと考えられています。エネルギー保存の法則に反するというのがよく言われる理由ですが、果たして本当にありえないのでしょうか?

 

法則といっても、それはいままでの経験から導かれた正しいと思われる推測であって、だれもこの世のすべてなど知らないのですから、もしかしたら何らかの工夫でエネルギーを循環させて、その流れの中からエネルギーを取り出し続けるようなことができるかもしれません。そんな風に考えて、いくらかの人々はフリーエネルギーを取り出す装置を発明することに情熱を傾けてきました。

 

そして、インターネット上では、いくつかの装置がフリーエネルギーを取り出すことに成功したという記事が出回っています。その装置のうちのひとつが謎の発電装置テスタティカです。

(動画は全部で1~11まであります。全部見るにはYoutubeに飛んでください)

 

もしもこれが本当なら、エネルギーの自給は達成され、理想の世界に向けて大きく前進できます。

テスタティカは、円盤を用いたその形状から、ウィムズハースト式誘導起電機をもとに作られたものだとインターネット上では推論されていました。ウィムズハースト式誘導起電機の仕組みは↓の動画で解説されています。

確かに形がそっくりなので、テスタティカは単なるウィムズハースト式誘導起電機ではないのか?という不安もありました。しかし、たとえほとんどのフリーエネルギーに関する噂話がウソだったとしても、その真偽を調べてみる価値はあると考え、謎の発電装置テスタティカを調査する旅にでました。

運命を感じる旅

インターネット上の情報では、テスタティカはスイスのアルプスの山々に抱かれたリンデン(Linden)という小さな村にあるメテルニッサ(Methernitha)という団体が作ったものだということでした。

 

少なくとも、私が調査旅行に出かけた2012年春の段階では、車なしでリンデンまで行くのは非常に大変で、スイスの首都ベルンから最寄りのオーバーディーススバッハ駅(Oberdiessbach)までの列車が少ないうえに、駅からリンデンまでのバスは3時間に一本くらいしかありませんでした。バスを長いこと待つくらいならということで、リンデンを目指して歩き始めました。

ところが、大きなバックパックを背負ってアルプスの山道を3時間も歩くのは予想以上に大変でした(^^;)

 

そこで、休憩も兼ねて、途中にあるバス停でバスを待とうかどうか考えていました。すると…

 

「どこへ行くんだい?」

 

と声をかけてくる30代くらいの男性が!

彼を仮にBと呼ぶことにしよう。

 

Bにリンデンのメテルニッサに用があると伝えると、

 

「そんな団体があるなんて知らなかったな。なんだか面白そうだし、

歩いていくとまだ距離があるから、車で連れて行ってあげようか?」

 

と親切すぎる申し出。

 

「これは誘拐か何かなんじゃないだろうか((((゜д゜;))))⁉」

 

と疑いたくなるほど親切すぎる。

 

「まあ、メテルニッサという謎の団体に単独で調査に行くのだから、いつだって誘拐や監禁される可能性もあるわけで、それならば道中の危険などなんのその。虎穴に入らずんば虎児を得ずだ!」

 

と決心し、Bの車に乗ることに。

結果的に、Bはすごくいい人だったので、旅のいい思い出ですが、

よい子は真似してはいけませんよ(^^;)

 

なんでもBは大の文学好きで、文学こそが自分の宗教だとさえ言っていました。

日本文学や合気道にも興味があり、三島由紀夫について聞かれたような気がします。

 

「日本人の優しさが好きだ。日本文化は世界の手本のひとつになりうる」

 

とも語ってくれて、愛国心という幻想にとりつかれていた当時の私には、またとなく嬉しい言葉でした。

 

さてさて、こうしてBと運命的に出会い、リンデンに無事到着することができました。

「おお!ついについた!あとはメテルニッサを見つけるだけ!」

 

と思っていると、Bが歩いていた村人にメテルニッサについて尋ねてくれました。

すると早くも2人目にしてメテルニッサの場所を特定!

 

この地域はドイツ語が主要言語にもかかわらず、私はドイツ語が話せなかったので、Bがいなければ村人から情報を聞き出すのは難しかったでしょう。

 

本当にありがとう、B!

メテルニッサ

ついに目的地のメテルニッサに着きました。

テスタティカという謎の装置をつくっただけあって、ロゴマークには工業技術を象徴する歯車が入っているのでしょうか?

正面玄関は開放的なガラス張りで、躍動感ある不思議な形の岩が両脇に鎮座していました。内部の壁面には温かみのある色で絵画が描かれていて、私にはとても気持ちが落ち着く空間のように見えました。

 

一方、Bは「家の近くにこんな場所があったのか」と建物の中を調べるように覗き込みながら、

 

「自分はしばらく外で君を待っているよ。だけど、このあと用事があるから、ずっと待つことはできない。もしもメテルニッサがヤバい場所だったらどうする?君に何かあっても自分は助けられないけど、それでも君は中に行くのか?」

 

と私に確認してきました。

 

謎の団体を前にしたBの心配はもっともですが、

 

「もちろん行くよ。そのためにわざわざ来たんだから。確かにここがヤバい場所という可能性もあるけど、虎穴に入らずんば虎児を得ずさ」

 

と私は答え、

 

「いざ、テスタティカの真相へ!」

 

と意気込んで呼び鈴を押しました。

 

……が、誰も出てきません。

 

玄関の周りをうろうろするも、人が見当たりませんでした。

 

このまま帰るわけにはいかないので、もう一度呼び鈴を押しましたが、やはり誰も出てきません。

 

それならばと試しにドアを引いてみると、

 

「カチャ…」

 

「あれ(゜_゜)? ドア開いてる⁉」

 

このときメテルニッサに対して持っていた警戒心が少しだけ解けました。

 

もしかしたらヤバい組織かもしれないと警戒もしていたのですが、アポなしで訪ねているので、玄関の温かみのあるつくりといい、鍵をかけない日本の田舎のような開放感といい、事前に普段と異なる演出をしているとは考えにくく、そこまで警戒するような場所ではないような気がしました。

 

「ごめんくださーい」

 

とりあえず玄関の中に入って中に呼びかけてみました。

 

すると、ひとりの年配のおばあさんが少し驚いたような顔でテクテクと歩いてきました。おそらく、突然の訪問者というだけでも珍しいのに、見知らぬ東洋人が独りで待っていたのが意外だったのでしょう。

 

「なんのご用でしょうか?」

 

おばあさんは少しぎこちない英語で尋ねてきました。

 

私がテスタティカとメテルニッサの自給自足的な生活様式に興味があってアポなしで来たと伝えると、おばあさんは私にしばらく待つように言いい、奥の部屋に行ってしまいました。

 

玄関で観葉植物と木製の白鳥がはばたく天井を眺めながら待つこと数分。

 

おばあさんが小さなメモ用紙を持って戻ってきました。

 

「残念だけど、アポなしの訪問は受け付けていないの。だから、明日の8時から昼過ぎまでの間にこの番号に電話してちょうだい。そしたら、アポがとれるわ」

 

そう言って渡されたメモ用紙にはBosshartという名前と電話番号が書かれていました。私は、ようやくメテルニッサに辿り着いたのに一度は引き返さなくてはいけなくなったことに少しがっかりしつつも、調査が進展しそうな兆しに安堵したのでした。 

帰り際に撮ったメテルニッサの美しい庭。中央奥に風力発電機のようなものが写っていますが、ほとんど回っていませんでした。

 

「テスタティカが本当なら、そんなものはいらないのでは?テスタティカの前につくられたものか?」

 

と疑問に思いながら、この日はBと共にメテルニッサを後にしました。

 

そして、Bの家で軽く紅茶をごちそうになったあと、Bに別れを告げ、チューリッヒの友人の家まで引き返しました。

 

「テスタティカが本物ならどれだけの人が救われるか……」

灰色

翌朝、指定された時間内にボッシャート氏へ電話をかけると、

 

「プルルルルル……」

 

「はい」

年老いた男性が少しぎこちない英語でそう応えました。

 

私は、ちゃんと電話がつながったことにほっとしつつも、テスタティカの真相に迫っていることを実感し、少し緊張して話し始めたと思います。

 

「昨日、メテルニッサで電話の約束をした者です。」

 

「ああ、君か。それで、要件はテスタティカについてなのかい?」

 

「はい。テスタティカというフリーエネルギー装置をつくったというのは本当なんですか?」

 

いきなり直球の質問。すると、ボッシャート氏は、

 

「試験したことは確かだ。だが、今は使っていない」

 

という返答をあっさり返してきました。

 

メテルニッサの庭で見た風力発電機のようなものが頭をよぎる。

これは、やはりテスタティカは質の悪い冗談だったということなのか?

それとも、興味本位の訪問者を追い払うための言葉なのか?

この段階では何とも言えないし、簡単に引き下がるわけにはいかず、

 

「そうですか……。それでも、私はメテルニッサの自給自足を目指す生活様式に興味があります。施設を見学させてもらえませんか?」

 

とすぐに尋ねました。この言葉はテスタティカを探るための単なる口実ではありませんでした。この頃すでに、自給自足、そして余ったものを他人に分け与えることでしかヒトデナシとの闘いに勝利する方法はないと薄々感じていたのです。メテルニッサが自給自足を目指す団体でもあることを知ったうえでの調査だったので、内心は想定通りというところもありました。

 

すると、

 

「そういうことならば歓迎するよ。しかし、突然のことだからなあ。いつこっちに来るつもりだい?」

 

「できれば今日か明日にでも」

 

「今日はさすがに無理だね。明日ならなんとかなるかもしれない。少し待っててくれ」

 

という具合に話が運んでゆきました。どのくらい待ったかは定かではありませんが、わりと長い静寂の後、

 

「明日の13時、メテルニッサに来てくれ。私ではないが、別のメンバーが案内するよ。それじゃあ」

 

とボッシャート氏は答え、これまたあっさりと電話を切りました。

 

テスタティカはあるのか?ないのか?

メテルニッサに行ったら何かあるのか?ないのか?

 

私の心は釈然としない灰色のままでしたが、私は明日の約束に間に合うようにチューリッヒの友人宅を出発しました。というのも、リンデンは車がなければ交通の便が悪く、チューリッヒからだと13時にリンデンに行くのは始発の電車に乗っても無理なので、リンデンの近くで前泊する必要があったからです。

私の心を表しているかのような灰色の空に包まれながら、メテルニッサからいちばん近い宿に到着しました。いろいろ考えても仕方ないので、その日は明日に備えてすぐに寝ました。

 

(いちばん近い宿でも、メテルニッサまで歩いて2時間くらいだったと思います。途中の道は景色がきれいで、なかなか楽しいのですが、さすがにメテルニッサまでの3時間+2時間=合計5時間歩くのは大変でした。リンデンを訪れようと思っている人は、車で行くことをお勧めします)

隠していたもの

翌朝、少し早めに宿を出て、メテルニッサに向かいました。登りが多い道でしたが、それほど時間はかからず、12時前にはリンデンに着いてしまいました。

 

約束の13時まで時間があったので、おそらく街で唯一の喫茶店でコーヒーを飲みながら時間を潰しました。

 

13時。一昨日と同じ玄関からメテルニッサを訪ねると、そこには40代ぐらいの優しそうな女性が待っていました。

 

「ハイ!はじめまして。あなたを待っていたわ。さあ、どうぞ」

そう言って彼女は私を食堂まで案内してくれました。彼女の名前をLとしましょう。Lはフランス人だと言っていましたが、いつからメテルニッサにいるのかは定かではありませんでした。

 

建物の中は、電気を極力使わないようにしているためか薄暗かったのですが、隅々までよく整備されていました。食堂の設備も立派で、大人数にも対応できるような調理器具がそろっているようでした。

 

「料理は日替わりでメンバーがつくっているのよ」

そう言ってLは私に紅茶をいれてくれました。2人で話をするには広すぎる食堂でしたが、座り心地の良いソファーと紅茶から漂うほんのりとした果物の香りが心を落ち着かせてくれました。

 

「さてと。あとで他の施設を案内するとして、まずはあなたがどうしてメテルニッサを訪ねてきたのか、詳しい話を聞かせてくれないかしら?」

Lは、私の心を見通すような真っ直ぐな目で尋ねてきました。

 

私は、テスタティカが本当にフリーエネルギー装置なのかを確かめたかったことと、メテルニッサの自給自足の集団生活に興味があることを伝えました。この段階では、テスタティカについては電話で得られた情報以上は得られないと考えたので、私がエネルギーと食糧の自給自足を目指している理由を話すことにしました。

 

「私は戦争や貧困を無くしたいんです。それで、最初は政治家になろうと思っていました。だけど、調べれば調べるほど政治はどうにもならいと分かってしまったんです。911を見ればわかるように、この世界の政治は武力で支配されているからです。だから、政治に期待するのはやめて、自分たちの生活を自分たちの手で創っていこうと決めました。それで、エネルギーと食糧を自給自足する方法を調べているうちに、テスタティカとメテルニッサを見つけたんです」

 

「そう。あなたの考えはだいたい理解したわ」

 

Lは、なにか議論になるのではないかと身構えていた私が拍子抜けするほどあっさりと私を受け入れ、話を続けました。

 

「あなたは悪い人ではなさそうね。私たちも外の社会には限界を感じて、こうしてメテルニッサで生活しているわ。外の人たちは、私たちを狂っているとか、カルトだとか言うけど、それは違うわ。むしろ、外の人たちのほうがおかしいのよ。メテルニッサの子供たちはテレビも新聞も見ないで育つから、暴力というものを知らないの。だから、地元の学校に行ったりすると、とても驚いて、怯えるの」

 

私は、一見するとあまり人の気配がしないこの施設のどこに子供たちがいるのだろう?と思いながら続きを聴きました。

 

「それで、テスタティカのことだけど、あれはあなたに電話で伝えたように、試験的に作ったものよ。結局、今は使っていないの。だから、電気は風力で少し発電する分を除いて、残念ながら外から買っているの」

 

「やはりそうですか……」

 

フリーエネルギー装置としてのテスタティカが改めて否定されたことに私は少し肩を落としましたが、それと同時にLの正直さを感じました。

 

「エネルギーをどうやって自給するかはメテルニッサにとっても大きな問題だわ。あなたは日本から来たのよね?311についてはどう考えているの?」

 

Lは何気なくエネルギーの話を原子力まで広げようとしたのでしょう。

しかし、この質問は私を悩ませました。

 

「あれは、少し複雑な問題なんです……」

 

私は本当のことを話していいのか少しためらっていました。

 

しかし、外の社会のおかしさに気が付いているLのような人なら、あの事件のおかしさもきっと分かってくれると信じました。

 

「原子力エネルギーの問題は確かにあるんですが……そもそもあの事件はテロなんです。信じてもらえるか分からないですけど、あれは人工的な地震によって引き起こされたテロなんですよ」

 

「……一体どうやって⁉」

 

やはり、Lにとっては初めて聞いた話のようでしたが、否定せずに聞き返してくれました。

 

「地下で爆発を起こせば地震は簡単に起こせるんです。その技術は第二次大戦のときにはすでに研究されていて、その後の冷戦を通じて洗練されていきました。311が人工地震だという証拠はいろいろあって、もうどこから話していいか分からないくらいなんです……」

 

「でも、誰がそんなことを?」

 

「いろんな説があるんですが……本当のところ誰かは分からないんです。でも、誰かがやった。あれはどう考えても自然災害じゃないんです。日本を破壊したい誰かがやったんです……」

 

そう言い終わるより先に、心の奥底に閉じ込めていたはずの怒りと悲しみが、私の目に涙となって溢れ出ていました。この旅で流すつもりはなかった涙。強がろうとした弱者の証。周りには打ち明けられない先見の孤独。しかし、どうにも涙があふれて来て、自分でもわけが分からないくらい泣いてしまいました。

 

「……ごめん。なんだかとても悲しくて……」

 

「ええ。私にはちゃんと見えているわ。あなたの悲しみが……」

 

 

 

何分たったでしょうか。Lは私が少し落ち着くのを待って言いました。

 

「私は、今日はじめてその話を聞いたから、あなたの話が本当かどうか判断できないわ。だけど、あなたの言っていることが本当だとしても、私はあなたが怒りや悲しみにとらわれることはないと思うの」

 

「……どうして?」

 

「私は全ての生き物には魂があって、何度も生まれ変わると信じているわ。あなたは魂を信じる?」

 

「……なんとなくは感じるんです。魂はあるんじゃないかって。私の亡くなった祖父たちの魂は、今、自分の中にいるように感じてはいます」

 

「それなら、311で奪われ命も同じよ。きっとまた生まれ変わるわ。だから、あなたが怒りや悲しみに苦しむことはないわ」

 

確かに、輪廻転生が真実なら、魂の死はないのかもしれません。しかし、だからと言ってあんな事件を引き起こしたヤツらが許されていいはずはありません。町を飲み込むドス黒い津波、破壊される原発、一瞬で灰になった広島と長崎、死ぬべきではなかった特攻隊員、大東亜戦争の敗北、偶然生き残った祖父母。綿々と連なる無慈悲で気まぐれな歴史は、非力な自分に何をしろと言うのでしょう。ウソに気付く力はあっても何もできないでいる自分が、ただただ情けなく、涙しか出てきませんでした。 

小さな平和

「私たちの庭を案内するわ」

 

私の心が乱れているのをじっと見つめていたLは、そう言って私を外に連れ出しました。庭は、建物からほんの数十メートル裏手にあり、木々に囲まれた小さな池を中心に、手作りの椅子や彫刻、それと人懐っこい犬たちが私を出迎えてくれました。

 

「この庭は、小さいけれど、心を落ち着けるにはぴったりなの。ときどきここで瞑想もするわ。庭では話さずに静かに歩きましょう」

 

前をゆっくり進むLは、ときどき目で合図しながら下を指して、私が小さなカタツムリや虫を踏まないように案内してくれました。

 

「どう?だいぶ心が落ち着いたんじゃないかしら?」

 

庭を出るとLが笑って言いました。

 

「ええ。いい庭ですね。ありがとう」

 

そう答えた私の心には、小さな平和がありました。